あれは熱い夏の日のこと。
都内の某ホテルへ向かった私は、
失礼のないように約束の時間よりも前に到着。
軽くメイク直しをしてロビーに向かうと、新聞を読んでいる白髪の紳士と目が合いました。
F社長はにっこり笑って右手を上げた。
私は軽く会釈をして同じテーブルへ呼吸を整えながら近づいた。
F社長『えっちゃん、この前はおおきに!心配かけてしまったね。ま~、ちょっとゆっくりお話しましょ。』
私 『F社長、お加減はもう大丈夫なんですか?』
、、、っという会話になるには、あるいきさつがあったのだ。
一か月前の大阪の事件を簡単にお話すると。
F社長がK社主催の講演の舞台に立たれる日、私は東京駅から新幹線に乗り大阪の大きなセミナー会場に向かった。
F社長がIT企業から依頼されて登壇されるからだ。
F社長の講演は滑らかなトークとお人柄で人気があり、関東の営業マンからも注目されていた。
新幹線を降り、開演時間ギリギリに会場に着いた私は汗を拭きながら受付を済ませ、満席状態の一番後ろのパイプ椅子に座った。
講演が始まって45分ほど経過した時、F社長は講演中に体調が悪くなり舞台で倒れてしまったのです。軽い熱中症のような症状でした。
300人ほど入った空気の薄いセミナー会場の中、突然の出来事に、
倒れたF社長を助けるスタッフもなくざわついているだけだった。
私にとっては当たり前の事でしたから、一番後ろの席からダッシュで舞台に向かい、倒れたF社長に声をかけました。
そうこうしている間にスタッフが水を運んだりして、F社長もすぐ意識が戻りました。
30分の休憩の後、後半の講演は無事済みました。
筆記用具をしまい、顔見知りの友人と挨拶を交わし、会場を出ようとしたその時、私を呼び止める方がいました。
『さっきは、おおきに!あなたはどこからきたんや?お名前は?』
まぎれもない、さっきまで舞台で話していたF社長でした。
私『響悦子です。東京からきました。お加減大丈夫ですか?』
F社長『お礼にお茶でもおごらせてな。』
私『有難いんですが、今日はとんぼ返りで東京に戻ります。』
そこで名刺交換をし、私は急いで駅に向かった。
あれから数日後、F社長から1本の電話を頂いたという訳だ。
話は再会のホテルのロビーの日に戻る。
F社長『えっちゃん、あなたのフットワークの良さ、人情深さ、気に入った!
私と仕事組みませんか?』
私『・・・?はい?』
F社長『恩返しに、私の仕事のスキルを伝授しようと思ってます。』
どうする?のるかそるか!
私の本業はボイトレの講師。F社長は経営者。
年の差20歳以上。
お父さんのような存在の方が、生きた経営学の師匠になるというのだ。
凄いドラマの展開に、夢でも見ているんじゃないかと、何度もアイスティーの
氷をカランカランとかき回し一気に飲み干した。
F社長のくったくのない笑顔と勢いに任せ、凸凹コンビが誕生した。
月に数回、関西から出張で東京に来られたタイミングに待ち合わせをし、
F社長直伝の経営学の個人授業が始まった。
そこで、分厚い本をいくつも紹介された中の一つに、ドイツの著者ミヒャエル・エンデが書いた【モモ】がありました。
この本に出会うまでに、私の人生は変わり始めていたのかもしれない。
コメントをお書きください